第48号議案 豊島区立保育所条例の一部を改正する条例・反対討論
清水みちこ
私は日本共産党豊島区議団を代表して、ただいま議題とされております第48号議案、豊島区立保育所条例の一部を改正する条例に対し、可決に反対の立場から討論を行います。
この議案は区立池袋第三保育園を廃止し、株式会社あしたばマインドに土地、建物などを無償で貸し付け、民営化をするものであります。
今回の民営化にあたっては、豊島区民間保育所事業者選定審査会が2021年4月30日、「選定事業者なし」との答申を出しました。にもかかわらず、区は答申直後に再公募を実施し、同年8月16日、株式会社あしたばマインドが選定されたのです。
私が第2回定例会の一般質問でも指摘した通り、区は事業者選定時期や引継ぎ期間など、自ら決めた民営化方針すらかなぐり捨てて、2022年4月の民営化ありきで進めています。
わが党は、民間の認可保育園が果たしている積極的な役割を十分認識しています。しかし、いま区がすすめている民営化は、保育に対する行政の責任を放棄するものであり、到底、容認することができません。以下、反対の理由を3点、述べます。
○反対理由の第1は、保育に関する公的責任を放棄するものであるからです。
区は2006年度の区立南池袋保育園、駒込第三保育園から、2021年度の駒込第二保育園まで10園を民営化しており、選定事業者はすべて社会福祉法人でした。わが党はこれまで区立保育園の民営化について、社会福祉法人であっても一貫して反対してきました。しかし、今回、初めて株式会社が選定事業者となり、民営化の問題点が一層明らかになってきました。
株式会社あしたばマインドは区内実績のない初参入の事業者で、区所有の土地、建物を使用し事業を行うことになります。年間使用料は税込み約1220万円で、民営化後3年間は100%補助で実質無償。4年目以降は85%補助で、事業者負担は年間183万円、月額で15万円です。園舎も設備も、ましてや園庭もある保育園を安価で確保できる事業者のメリットは大変、大きいと考えます。
その一方で子どもたち、保護者はどうでしょうか。私の第2回定例会の一般質問で「コロナにより多くの制限がある中で遮二無二、民営化を強行する理由はなにか」という質問に区は「あくまでも区民サービスの向上のために進めている」と答弁しました。
しかし「保育」は区民サービスではありません。保育とは子どもが質の高い保育を受ける権利、「人権」であり、「保育サービス」という言葉で置き換えることなどできないのです。
区は今回の民営化で、保育時間が20時までから20時15分までと15分延長になること、保育プログラムのリトミック体操や、ネット、ライブ配信で外国の保育園との国際交流などが、保育サービスの向上としています。保育時間の15分延長や、リトミック体操、国際交流などを否定するものではありませんが、これまでと同じ「保育の質」を担保できないのであれば、本末転倒です。
先月11月26日、初めて保護者説明会が開かれ私も参加しました。そこで私が特に印象に残った保護者の声は、「豊島区の方に聞きたい。民営化の一番の意味はなんですか。池袋第三保育園が大好きです。民営化で何が変わるのですか」というものです。区の回答は「民営化は区の方針。区側の論理ですが、来年度、児童相談所ができる。子どもの安全、生活を守るために児童相談所や子ども家庭支援センターなど、区の保育士のノウハウを他の行政分野で活用するのが民営化の一番の理由です」と答えました。
保護者からさらに「児童相談所は区の保育士でないとだめなんですか」と問われたのに対し、区は「高度に専門的なことを求められている。様々なスキルが必要なので区の保育士を活用して全体で円滑に進めていきたい」と答えました。
では池袋第三保育園の子どもたちに高度に専門的なことは求められていないのでしょうか。保護者のご不安の声にあまりにも冷たい対応だと思います。
そもそも保育士は高度に専門的なスキルや経験が求められる専門職です。保育士職員の人材活用と言いますが、これまで区がきちんと保育士を採用し、育成してこなかったその結果ではありませんか。区には保育の公共性、専門性を果たす役割がありますが、これではその責任を果たすことができません。
私が委員会審査で改めて、公立園の果たす役割について区の認識を問うと、子ども家庭部長は「公立園はまさに地域の保育の中核という位置づけ、地域の大事な子育て拠点という認識に変わりはございません。保育の質の向上につきましては区立園につきましては当然図っていくべきものと努力もしておりますしこれからも務めていきたい」と答弁しました。地域の保育の中核、大事な子育て拠点という認識があるのであれば、今後さらにその役割が求められるのに、公立園を増やすことがあっても減らすことはあってはなりません。
○反対理由の第2は、「保育の質」に直結する、保育士の待遇についてです。
国の想定では委託費の基本分単価だけでも8割が人件費とされています。しかし「委託費の弾力運用」が可能になり、都内の社会福祉法人の平均値では国の想定に近い7割を人件費にかけていますが、株式会社では5割程度と人件費比率は低くなっています。
区に保育士の待遇改善についての認識を問うと、保育士の待遇改善は重要な視点としつつも、事業者に直接、保育士の待遇改善の指示はできないもどかしさがある、と答弁。つまり区には民営園の保育士の待遇改善はできないということです。
そうしたなかで、2020年11月、港区が私立認可保育園に対して実施した指導検査で、株式会社ライフサポートが運営する保育園において「不適正な職員配置及び委託費の不適正受給」があったこと、法人指導部による意図的な不適正受給の事実が確認されたことが区HPで公表されています。同法人は港区以外でも、杉並区、江東区で同様の委託費の不適正受給をしていたことが確認されており、豊島区でも同法人運営の保育園が1園あります。
豊島区HPで公表されている「2020年度保育施設指導検査結果一覧」では、2021年7月19日現在、指導を受けたほとんどの私立保育園が「改善済」となっています。しかし、株式会社ライフサポート運営の保育園は、「会計」についての3点の指摘全てが「改善中」のままです。
委員会審査でどのように「改善中」なのか確認すると、区は他区でも発覚したような偽装的なものがあるかないか、さかのぼって調査書と出勤簿を突合し精査中と答弁しましたが、他区のような不適正受給があれば大問題です。また指導内容の改善については、法人の改善策の提出を待っている、あとどれくらいかかるかはわからないという、大変無責任な答弁でした。
公立園の民営化を始めた2006年、民営園は7園でしたが、今年2021年4月1日現在、民営園は71園と10倍にもなっています。保育現場も区も頑張ってはいますが、これだけ激増すると区の目が届かないところが出てくる、また指摘しても放置されたまま、検査をしても不正をなかなか発見できないのが現状です。このような状況で民営化はすべきではありません。
○反対理由の第3は、保護者の願いに応えていないからです。
今回の民間事業者選定委員会には、保護者からの「引継ぎのスケジュールが心配。充分な引継ぎ期間を確保してほしい」「保育の質が下がると困る」などの要望が報告されています。
しかし区は、2014年の政策経営会議決定の今後の民営化方針で「円滑な引継ぎが行えるよう(中略)事業者選定は開園の3年前までに実施」することや、原則1年間の引継ぎ期間を、今年4月に民営化した駒込第二保育園がコロナの影響で6カ月に短縮したのを既成事実にし、6カ月で十分可能と、自ら決めた方針、ルールもなきものにしています。
さらに問題なのは区の姿勢です。9月の子ども文教委員会で、予定していた9月中旬の保護者説明会はコロナの影響で中止、事業者が用意した動画をYouTube配信で説明会に代えると報告がありました。私は保護者説明会を開かないのは区の姿勢が厳しく問われる、コロナの状況を見て必ず行うべきと強く求めました。
そして初めての対面での保護者説明会が11月26日に開催され、私も参加しました。保護者からは不安や疑問の声が次々と出されたにもかかわらず、回答は不安や疑問の解消には程遠いものでした。
しかし委員会審査で区は保護者説明会について「目立った質問はなかった」と、内容を議会に報告することはありませんでした。これは区の認識の甘さとともに、区の姿勢の表れです。
保護者の不安や疑問の声を具体的に上げると、「主任保育士が10月から来ると言っていたのに12月からと遅れている。マニュアルができるのが1月で引継ぎの遅れが心配です」とか、「子どもたちに民営化、経営母体が変わることをどう説明するのか。子どもたちの反応が心配です」とか、「職員の人数、特に乳幼児の送り迎え時の先生方のフォローはこれまで通りですか」などです。
それに対する回答は「引継ぎは書面を何枚も用意してやっている、遅れを取り返せるよう書面と突き合わせてスムーズにできるようにしている」、「民営化については、まだ3カ月もあるので伝えていない。まだどう伝えるか決めていない」、「職員は常勤、非常勤とも採用しているが、第三保育園ほど人数が置けるかは厳しい」などで、保護者の不安感は解消されるどころか反対に大きくなっています。保護者の不安や疑問は公立園の「保育の質」が担保されるのかどうかです。それを置き去りにして「区民サービスの向上」を謳っても意味がありません。
短期間での引継ぎに加えて、大幅な保育士の交代は子どもたちの成長に影響を及ぼし、現場の保育士、職員には過重な負担となります。昨年からすでに2年近く、新型コロナというこれまで経験したことがない状況となっています。現在は感染者数も少なくなっていますが変異株や、第6波への懸念は続いている状況です。決まったことだからとスケジュールありきで進めるのではなく、一旦立ち止まり見直すべきは見直す、子どもたちや保護者の願いに応えることが必要です。
これまで自民・公明党政権は「基準緩和」と「詰込み」で、公的責任を投げ捨て民間・企業頼みの安上がりな保育を推進してきました。2015年からは「子ども・子育て支援新制度」を導入し、市町村の保育の公的責任を後退させ、規制緩和と企業参入を拡大してきました。ビルの一室、園庭・ホールのない保育園が増え、保育園内での事故が増加するなど、保育の質の低下が大きな問題になっています。さらに政府は2021年度から始めた「新子育て安心プラン」に、クラス担任を非正規でもよしとする新たな規制緩和を盛り込みました。この間、認可保育所より基準が低い小規模保育を促進し、認可外の企業主導型保育は7万人分も作られました。公立保育所の統廃合・民間委託を促進し大きな問題になっています。コロナ禍で業務量が増えるなど、保育士の負担は大きくなっていますが、根本的な配置基準の引き上げはなされず、賃金の底上げも進んでいません。
感染対策の面からも、子どもたちの成長・発達の面からも、保育士が安心して保育ができるゆとりある保育基準をつくることがどうしても必要です。これまでの自民・公明党政権が進めてきた規制緩和中心の安上がり保育から、保育拡充路線が求められているときに、区が保育の民営化をこれ以上進めることはきっぱりとやめるべきです。
以上、3つの問題点を指摘し、第48号議案、豊島区立保育所条例の一部を改正する条例に対し、可決に反対をするものです。以上で討論を終わります。ご清聴ありがとうございました。